やっぱり発表会をひらこう!
カフェbroom&bloomには、ふたつの扉があります。
ひとつは、どこの店にもあるような、出入り口に存在するガラスの扉。カフェを訪れる人々が往き来をするたびに、上部につり下げたベルが、チリリン、チリリンと、鈴の音を鳴らしています。
もうひとつは、店の中央に横たわる大きな木の扉。丸窓があり、鉄の取っ手がついたこの扉は、船をモチーフにしてつくられたという、アーティスト・角文平さんの作品です。broom&bloomでは、この扉を大テーブルとして客席に使っています。
今回のイベントを準備するにあたってbroom&bloomを訪れたとき、この大テーブルにひきつけられた私は、ここをメインに作家さんたちの作品を並べさせていただこうと思いました。きっと映えるに違いない。およその展示計画をたて、ご意見をいただくために、後日また、CHICU+CHICU 5/31の山中とみこさんをお誘いして店を訪れました。
山中さんもやはり、店の中央に横たわる大きな木の扉のことを、すぐに気に入った様子でした。そして、「これはやっぱり大テーブルとして使いましょうよ」と言いました。「イベントをきっかけに、初めてこのカフェにきた人たち、それぞれ知らない人同士が、このテーブルをかこんで一緒に座り、同じ時間をすごすのって、ステキなことだと思いませんか」。
こうしてイベント当日、大テーブルには、たくさんの人が相席をすることになりました。
その様子をながめながら私は、山中さんを事前にお連れしてよかったなあと思いました。私ひとりで判断していたら、こんな風にはならなかったかもしれない。山中さんがいつも、何を中心にものごとを考えているのかを、つくづく感じました。
今回、イベントを開催したのは、私にとってはじめての挑戦です。もともと、「同じ本に掲載された他の作家さんにもお会いしてみたい」という、山中さんのひと言から、打ち上げのつもりでスタートした企画でした。しかし、せっかくみなさんのようなスバラシイ作家さんに集まっていただくなら、作品もみていただけるようにしたい。そう感じて、このような展示をふくむイベントのスタイルになったのです。
イベントをひらこう! そうは決めたものの、会場探しの時点で、私は力尽きていました。10月は個展や企画展の真っ盛りで、結果としてbroom&bloomのような理想通りのカフェに出会えたからよかったけれど、会場を決めるまでに少々難航したのです。脳裏には、四分一さんが本書のなかで話してくれたことが思い浮かびます(四分一さんは、一ヵ月間のイベントを主催して燃え尽きたそうです。本書をごらんくださいね)。
イベントをするのって、たのしそうだと思っていたけれど、決めること、やらなければいけないことがたくさんあって、私のようなビギナーだと、あちこちに気を配っているうちに、だんだんポイントがずれていってしまいます。そんなとき、山中さんのように、いつでも自分のイメージを持ち続けていることは、いちばん大切なことなのかもしれないと思いました。
なんのために発表をするのかーー。山中さんがその先に持っている答えはきっと、いつも確かで、ぶれがないのです(山中さんは本書で、初個展までの道のりを語ってくれています)。
さて、イベント当日。会場探しだけで力尽きていたような私に、本番のプレッシャーといえば並大抵のものではありませんでした。
作家さんは、個展やイベント続きでお忙しいなか、作品を仕上げてくださいました。京都や奈良から、鹿児島から、交通費をかけてきてくださった方もいます。
カフェのみなさんも、前日を臨時休業にしてまで、このイベントに全力を尽くしてくださいました。
お客さん方も、いろんな予定が立て込むなか、どうにか調整して、このイベントに足を運んでくださったのでしょう。
人が来てくれることは、決して当たり前のことではありません。
私のなかでは、みなさんへの感謝の気持ちがふくれあがって、そのうちに、どうしていいかわからなくなってしまいました(注・もともとかなりテンパりやすい性質です。笑)。
実はイベントの真っ最中、こともあろうに私は、ぎっくり腰になってしまったのです。気持ちは先走っているのに、前のめりなのに、カラダが動かない。思うようにできなくて、もどかしいばかり。スタッフの人々に支えられて、甘えさせてもらい、なんとか一日を終了したときには、自分のいたらなさ、情けなさに、胸が締め付けられていて、その痛みは腰の痛みをはるかに越えていました。
これが最初で最後のイベントだーー。
自分の実力以上のことに手を出してしまった気がして、落ち込みました。みなさんが、個々にたのしんでくださったのが、せめてもの救いでした。たくさんの方に来ていただいて、作家さん同士や、お客さんとの縁も広がったようだし、カフェの料理はおいしいし、おかげさまでとてもいい雰囲気のイベントになりました。
でも、私がもっとがんばれば、もっと、もっと、ああできたはず。こうできたはず。そんな思いばかり押し寄せてきました。
そこでまた、本書に登場したやまぐちめぐみさんの、「個展が終わるたびに落ち込む」という言葉を思い出しました。こういう感じなんだろうか? やまぐちさんは、ご自分で作品を手がけているから、それでもまた、つぎの個展に挑んでいくわけだけれど、私にはつぎはない。そのときは本気でそう、強く思ったのです。
ひと晩寝て翌日は、うちの次男の保育園の運動会でした。イベントのつぎの日に朝から弁当づくりだなんてと、直前までは疲労感でいっぱいでしたが、いざ運動会に出向くと、そこには子どもたちのかわいい姿と、仲良しのママさん・パパさんたちとのたのしい会話があって、私の昨日までの心の緊張も、あっという間にほぐれていきました。仕事と家庭と、ふたつあると、それはたいへんではありますが、こうやって、気持ちを切り替えさせてくれることは、とてもありがたいことだとつくづく思いました。
そして、運動会を終えて帰宅したとき、私の目に飛び込んできたのは、前日のイベントにきてくださったみなさんからいただいた、お花でした。うれしかったなあ。お花をながめていると、素直な気持ちがまっすぐにこみあげてきました。そして、来てくださった方、みなさんの顔が順に思い浮かんできて……。気がつくと、昨夜に感じた私の心の痛みはすっかり消えていました。
その後にこみあげてきたのが、「終わったんだ」という達成感です。この書籍をつくるにあたって、構想から考えると軽く2年以上が経過していました。原稿を書き終えても、校了しても、本が書店に並んでも、まだまだ終わらないような気がしていましたが、お世話になった作家さんと約束したイベントを終了した今、このときに、ようやく終わったと、思えることができたのです。
週があけて月曜日。イベントのお礼をかねて、関係者と連絡をとるうちに、話題はつぎの企画へと流れていきました。そう、私にはつぎにやりたいことが待っています。本書の取材を通じて、作家さんたちのものづくりへの姿勢を見せていただき、思ったことは、「私もがんばって原稿を書きたい」ということでした。みなさんがものづくりに打ち込むように、私ももっと、もっと、誰かの役に立つ文章が書けるようになりたい。
さて、つぎの企画はどうやって動かしていきましょうか。どんな構成で、どんな方に取材をして……。そうして仕上がったときには、やっぱりカフェで、みなさんに見てもらいたいですよね!
気がつくとまた、イベントを企てている私がいました。
「出会いがあるのがたのしい(イシイリョウコさん)」、「好きを共有できるのがうれしい(CHICU+CHICU 5/31さん)」「とにかく誰かに伝えたい(四分一亜紀さん)」
本書に登場した作家さんたちは、口々に発表会の魅力を語ってくれました。
それを実感するためには、自分でもやってみるのがイチバンです。まだまだ未熟な私ですが、今回の経験があるからこそ、次回はまた、違う感じにできるような気がします。今度はああしよう、こうしよう。来てくださるみなさんは、どんなふうにすごせるのがベストかな? あれこれ考えていたら、だんだんたのしくなってきました。
やっぱり発表会をひらこう!
次回もどこかで、みなさまにお目にかかれますように。